作詞作曲グラフィティ<転調の快楽! 対比の美学=同主転調!>

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こんにちは、野口義修です。
今回は作曲をキラリと光らせるテクニック「転調」のお話です。

作曲を始めると、誰もが一度は転調に憧れるようです。僕もそうでした。カッコ良い感じもするし、知的な感じもする。実際に、聴いてみても曲がキラリと光るんです。
曲のキー(調、ハ長調、イ短調など)が途中で変わることを転調といいます。


「気(キー)が変わる」とも、「曲の雰囲キー」が変わるとも言います。すみません、左の部分、ダジャレです。

今回は、転調の代表的な手法である「同主調への転調」の代表例をご紹介しましょう。

例によって、最初は基本的な部分の解説です。
同主調とは?
ハ長調(Cメジャー)とハ短調(Cマイナー)のように、主音(この場合、ハ音=C)が共通する長調と短調をお互いに同主調と呼びます。

ハ長調の3コードで C-F-G7-C と弾いた明るい感じと、
ハ短調の3コードで Cm-Fm-G7-Cm と弾いた切ない感じとが、
曲中でフッと入れ替わったら、これはもう劇的な変化と言えます。

しかも、ベース音で考えると、同じ「ド(C)音」→「ソ(G)音」経由→「ド(C)音」に戻る!
という同じ経路をたどりながら、長調VS短調という まったく正反対のサウンドを聴かせるのですから、
より転調の効果が鮮明となるわけです。

拙著の作曲本133ページに、同主調の転調の例でビートルズの「フール・オン・ザ・ヒル」を紹介しています。
この曲こそ主調の転調の代表曲です。
曲の出始めは、ニ長調(Dメジャー、#2つの調です)。
サビは一転して、ニ短調(Dマイナー、b1つの調です)


The Fool On the Hill

この映像は、ビートルズの自主制作(TV)映画「マジカル・ミステリー・ツアー」のものですね。
28秒あたりから、画面が綺麗なオレンジ色に変わります。
そのタイミングで、Dマイナーに変わるのです。
サビは、

♪丘の上の愚か者は、太陽が沈むのを見ている。でも、心の目では、地球が回っているのをちゃんと見ている……
そんな歌詞です。
夕陽のイメージを短調でしっとりと表現したのですね。
映像のオレンジも、夕陽の象徴です。
味がありますね。
Aメロディーの草原っぽい穏やかでのんびりしたメジャーのイメージ。
サビから一転した夕陽のマイナー。

この対比の美学が、同主転調の存在感です。

この歌詞、何だかガリレオの地動説を歌っているようにも聞えますね。

もう一曲、今度は日本の名曲「雪の降る街を」です。
1952年(昭和27年)、NHKのラジオ番組「ラジオ歌謡」で紹介された作品。中田喜直先生の大傑作メロディーです。
中田先生は、【『ちいさい秋みつけた』や『めだかの学校』『夏の思い出』など、今日も小中学校の音楽の時間で歌い継がれている数々の名曲を作曲した日本における20 世紀を代表する作曲家……Wikipediaより引用】です。
ちなみに、1923年(大正12 年)8月1日生誕、2000年(平成12 年)5月3日没ですから、つい10年ほど前までご存命だったのですね。
人の心の機微や歌詞の行間をメロディーで完璧に表現できる天才と思います。
その先生の自信作……「雪の降る街を」、どこで同主転調が行われているか、じっくり聴いてみてください。


「雪の降る街を」

中田先生のオリジナル楽譜を見ると、この曲はイ短調(Aマイナー)で始まります。
暗い雪の道を、寒々と歩いている様子が、短調で表現されていますね。
サビです! ♪遠いくにから落ちてくる…… ここが、長調です。イ長調(Aメジャー)に同主転調です。
ふっと空を見上げると、薄明かりが見えるようなイメージ。
長調の明るさが、救いや喜びにつながっていきます。
次がミソです!
♪この思い出を……が二回登場しますね。
最初の♪この思い出をは、Aメジャーのコードがついています。
次の♪この思い出を……は、Aマイナーのキーに戻ります。
思い出にも、悲しい思いでや楽しい思いでがあるのを長調と短調で描き分けているようで、その作曲手法にはドキドキしますね。

この文章を読んでくれた友人から、
「「雪の降る街を」も最後が明るく終わるから聴き終わって晴れやかになります。
」とメッセージを頂きました。
野口は、ハッと気付きました。
1番2番の最後の歌詞は、

「あたたかき幸(しあわせ)のほほえみ」「緑なす春の日のそよ風」

……と希望を歌っています。
そこで、中田先生は、最後の小節で、長調に転調しているのです
心象風景の中の雪が、最後の小節の長調への転調で止むかのような、効果があります。
あるいは、雪が止んだ喜び=歌詞の読み方によっては、悩みが晴れた喜びを、長調への転調で象徴しているのですね。
心憎いばかりの作曲テクニックですね。感無量です。

さて、
手元に中田先生が昭和35年に上梓された「メロディーの作り方(音楽之友社)」という本があります。その本に「雪の降る街を」が教材として登場します。残念ながら、現在は廃刊ですが、古本で買えるようです。
再版を強く望みます。

本の中から、先生の言葉を引用します。

「……附点のついたリズムで、雪のふるまちを、とぼとぼあるく感じをあらわしています
所々にある三連音符が、同じリズムの単調さを救い、また、終りの方、いつのひかつつまん の所(赤字の部分)は附点をわざと取ってあり、リズムの流れ過ぎを防いでいます
日本人は淋しい短調の曲が好きなので、この曲が好まれるのかも知れませんが、私は。この曲を途中から長調にしたことを非常に良かったと思っています。もし最後まで、短調のままで通してしまったら、この曲は半分位 値打が下がってしまうでしょう。
この曲が、大衆歌曲といっても、流行歌手だけが歌う歌謡曲のようなものでなくて、一流のクラシックの声楽家や合唱団の人が歌うのは、この途中から長調になって、いろいろ転調するようになっていることが原因であると思っています。……」(下線や注釈は野口による)

中田先生著書表紙.jpgのサムネール画像

「メロディーの作り方」中田喜直著

この頃のメロディーは、大半が詞先(しせん)です。
作詞家の詞(詩)が先にあって、それにあわせて作曲家がメロディーを考えるのが詞先でしたね。
作曲家には、歌詞を読み取り味わう能力が不可欠と言えます。
ちょっと、余談ですが上記の文章から、中田先生の作曲の考え方や歌詞とメロディーの関係などが読み取れますね。とても貴重な文章です。

先ほどの「フール・オン・ザ・ヒル」もそうですが、歌詞の中のキーワードや内容や意味に反応して、短調から長調など、転調を考えることが多いのです。

つまり、転調によって歌詞の世界やメッセージをより鮮明にすることも出来るのですね!

日英二大同主調転調の名曲聴き比べ! 皆さんも同主調の転調にトライしてみたくなったのではないでしょうか?
同じ主音の2つの調だからこそ、そのサウンドの対比がよく分かる!

「A君とB君、全然 性格が違うよね」よりも
A君とB君、ふたりとも 健太という名前なのに 全然 性格が違うよね
後者の方が、より対比が明確に出ますよね!

そう、この対比の感覚が同主調の転調のヒミツだったのです!

ちなみに、この曲のタイトルですが、
ジャスラックの著作権上の表記では「雪の降る街を」

中田先生のオリジナル楽譜と御著書では、
「雪のふるまちを」
初めて世に出た高英男のシングル(1953年発売)では、「雪のふる町を」

……になっています。タイトルにも歴史ありですね。

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さて、
……関連して拙著も紹介させてください。中田先生の童謡も登場する「書いて、彩って、弾いて、歌って 童謡が脳と心に効いてくる」には、こんな感じで音楽って、作詞作曲って素敵だなぁというお話が詰まっています。
目から鱗のオモシロ話が満載です。
娘、野口琴乃のイラストによるぬり絵も楽しめる癒しの一冊でもあります。

ぜひ、ご覧ください m(_ _)m

 

 

フール・オン・ザ・ヒルが楽しめるビートルズのアルバムは、「マジカルミステリーツアー」

では、今回はこのへんで!
またの、お越しをお待ちしております。


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